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ジャッド|マーファ展(ワタリウム美術館)

公開日: 2026年7月8日

展示室に入ると、足が止まった。

作品は部屋の隅に静かに立っているだけなのに、
なぜか前へ進めない。

黒い直方体が積み重なるその姿は、
何かを拒んでいるわけではない。

それでも身体は、
見えない面に押し返されるような圧力を感じる。

だから無理に近づこうとはせず、
その場にじっと立つ。

すると、不思議なことが起きた。

作品は床の上に立っているはずなのに、
視線の中では際限なく上へ伸び始める。

高さが増したのではない。

反復する形が、
終わりのない垂直のリズムを生み、
「もの」が天井の向こうまで続いているように感じられた。

さらに近づき、
箱の一つひとつを覗き込む。

黒く塗られた工業的な素材だと思っていた面は、
光を受けると静かな水面へと変わる。

わずかな反射が揺らぎとなり、
深さを持たないはずの箱に、
透明な空気が満ちていく。

そこには金属の冷たさではなく、
夏の日陰に立ったときのような涼しさがあった。

この作品は、
物質の存在感を強める彫刻だと思っていた。

しかし体験したのは、その逆だった。

近づくほど重さは消え、
固体は光になり、
箱は空間そのものになっていく。

ジャッドは形を見せているのではない。

私たちの身体が、
距離によってどのように空間を感じ、
時間によってどのように「もの」が変化していくかを見せている。

この作品は、見るものではない。

しばらくその場に立ち続けた身体だけが経験できる、
静かな出来事だった。

展覧会概要

展覧会名 ジャッド|マーファ展
開催場所 ワタリウム美術館
開催期間 2026.02.15-2026.06.07(延長のため2026.07.12)

展覧会レビュー 身体の記録

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