ポストモダンのデザイン集団
メンフィスはイタリアのミラノを拠点に、家具や照明、布、陶磁器などを手がけたデザイン集団です。建築家でデザイナーのエットレ・ソットサス(Ettore Sottsass)を中心に活動し、非対称の形、ラミネート(薄い樹脂を貼り合わせた化粧板)による鮮やかな色彩や装飾などが特徴で、モダニズムが謳った「機能」や「簡潔さ」を良しとするデザインとは異なる表現を前面に出しました。
機能偏重への反発
1980年12月、ミラノにあるソットサスの自宅に若いデザイナーや建築家が集まったことがメンフィスの出発点です。「メンフィス」の名称は、ボブ・ディランの曲「Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again」に由来します。活動の背景には、1960年代のラディカル・デザイン(既成の工業デザインや生活像を批判的に見直す動向)や、1970年代末のデザイン集団アルキミア(Alchimia)を通じて獲得したソットサスの経験がありました。「機能だけでは足りない」という考えから、象徴や物語、感情的な効果を物に込めることを目指し、1981年9月にミラノの「Arc '74」ギャラリーで家具や照明、陶磁器など55点を発表して大きな反響を呼びました。
常識を覆した作品群
メンフィスでは、家具、照明、ファブリック、カーペット、陶磁器、ガラス、金属製品など、幅広い品目を設計しました。例えば家具のデザインでは、アベット・ラミナーティ社の装飾ラミネートと木目の美しい突板などを対照的に組み合わせるなど、それまでの家具の常識を覆す作品が話題となりました。代表作である『Carlton』(1981)は人の姿を想起させるデザインの書棚で、間仕切りとしても使える設計です。『Casablanca』(1981)は三方に飛び出した装飾と模様付きのラミネートで装飾された扉が特徴で、装飾を家具の一部として取り戻す意図を明確に示しています。『Super』(1981)は車輪付きの照明で、おもちゃとして使われることを前提にした意欲作です。いずれの作品も1980年代前半のデザインシーンに強い影響を与えました。
参加したメンバー
初期の会合には、マルティーヌ・ベダン、アルド・チビック、ミケーレ・デ・ルッキ、ナタリー・デュ・パスキエ、マテオ・トゥーン、ジョージ・J・ソウデンらが参加しています。のちにアンドレア・ブランジらが加わり、日本からも倉俣史朗、梅田正徳、磯崎新らが展覧会や製品開発に関わるなど、国際的な広がりを見せました。一方でソットサス自身は1985年にグループを離れ、自身の設計事務所の仕事に重心を移しています。
短い活動期間
公式サイトによると、メンフィスの活動時期は1981年から1985年とされています。グループとしての立ち上げからソットサス離脱までの期間は短かったものの、「メンフィス・ミラノ」ブランドとしては製品の販売が継続して行われています。前述の『Carlton』はニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています。2010年代以降の「コーポレート・メンフィス」(メンフィスの幾何学的/平面的スタイルを起源とする、IT企業等で多用されたイラスト表現)などのように、後年のビジュアルデザインやファッションにも影響を与え続けています。機能と装飾の同時性を追求した活動として、また高級感のある素材と安価な素材との組み合わせを提案した先駆者として、現在もデザイン教育やアートの文脈で高く評価されています。
